大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(行コ)203号 判決 2000年12月26日

控訴人(原告)

右訴訟代理人弁護士

山下清兵衛

北村美穂子

被控訴人(被告)

柏税務署長 阿部憲道

右指定代理人

小池充夫

安岡裕明

鈴木智

安井和彦

山本雅一

山諸剛二

西野正之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が、控訴人に対し、平成一〇年四月二八日付けでした平成九年度所得税の無申告加算税の賦課決定を取り消す。

三  被控訴人が、控訴人に対し、平成一〇年四月二一日付けでした平成九年度所得税の督促処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、平成九年度の所得税の確定申告を確定申告書の郵送により行った控訴人が、右申告書送付の際の消印が法定申告期限後であったため、右確定申告は期限後申告に当たるとして無申告加算税の賦課決定及び所得税の督促処分をした被控訴人に対し、確定申告書を法定申告期限内に郵便ポストに投函したことが証明される場合は期限内申告に当たるなどと主張して、右賦課決定及び所得税の督促処分の取消しを求めた事案である。

原審裁判所は、控訴人の請求を理由がないとして棄却したので、これを不服とする控訴人が控訴したものである。

二  前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」の一及び二(原判決四頁二行目から一一頁七行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の請求は理由がないと判断するものであり、その理由は、次の二のとおり控訴人の当審における主張及びこれに対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄第三「当裁判所の判断」の一ないし四(原判決一一頁九行目から一五頁二行目まで)に説示するとおりであるから、これを引用する。

二  控訴人の当審における主張及びこれに対する判断

1  控訴人の主張

(一) 控訴人の所得税確定申告の経緯

(1) 一年目(平成九年三月一七日申告分)

控訴人は、平成九年三月一七日(月)夜、平成八年分の所得税確定申告書を郵送により、柏税務署長宛に送付、申告した(期限内投函)。ところが、柏税務署長は、控訴人に対し、無申告加算税を賦課したので、控訴人は、異議申立てをしたが、棄却された。その後、控訴人は、国税不服審判所に対して、審査請求をしたが、却下された。加算税賦課決定について、取消訴訟を提起しなかったのは、投函時刻を明確に証明できなかったからである。

(2) 二年目(平成一〇年三月一六日申告分)

控訴人は、平成九年分の所得税確定申告書を平成一〇年三月一六日(月)夜、郵便ポストに投函した。投函の際の状況をビデオに収録し、投函の時刻がわかるように証拠保全した。しかし、柏税務署長は、申告書を郵送した封筒の消印が、同年三月一七日付けとなっていたので、控訴人に対し、無申告加算税等の賦課決定をした。これに対し、控訴人は、異議申立て及び審査請求をしたが、いずれも棄却された。本件訴訟は、これに続く賦課決定の取消請求である。

(3) 三年目(平成一一年三月一五日申告分)

控訴人は、平成一一年三月一五日(月)夜、平成一〇年分の所得税の申告書を郵便ポストに投函した(期限内投函)。ところが、この申告書は、期限内申告として扱われ、自動振替の方法により納税額が支払われた。柏税務署長は、申告書が送付された封筒に郵便局の消印が押印されていなかったので、期限内申告として処理したとのことであった。

(二) 控訴人の法的主張

(1) 控訴人は、右三年間にわたり、三回の所得税確定申告をいずれも法定申告期限の最終日(申告期限の最終日が休日となる場合は、月曜日が最終日とされている。)に、郵便により行った。その方式は、三回とも全く同じであり、期限内に郵便局へ申告書を投函したものである。三年目の申告日は、一年目及び二年目と同じ日であり、平成一一年三月一六日(火)以降(期限後到達)に柏税務署に到着しているはずなのに、期限内申告として扱われた。

二年目と三年目の申告書送付について、唯一異なるのは、郵送用の封筒に郵便局の日付消印が存在するかどうかだけである。二年目の申告は間違いなく、期限内に郵便ポストに投函されている。

郵便による申告は、国税通則法(以下「法」という。)二二条によれば、郵便局の消印が郵便封筒にない場合であっても、できるだけ救済されることになっている。「郵便局への投函が、期限内であることが合理的に推測できる場合」は期限内申告として扱わなければならないとの趣旨である。「期限後数日経過して税務署に到着した申告書で、封筒から投函日が不明のもの」について、税務署は、期限内申告として扱っている。相当期間の判断は、第一次的には税務署が行うことになる。右二年目の郵送申告は、間違いなく、期限内に郵便ポストに投函されたことが推測される」のではなく、「間違いなく期限内に投函された」のである。

本件において、控訴人は、投函日を問題にしているのであって、封筒の日付を問題にしているのではない。「投函が期限内に行われていて、かつ、それを封筒の日付以外で証明できる場合如何」というのが、本件の論点である。被控訴人は、「封筒の日付による証明力の範囲」を争点として、裁判所に判断させようとする。しかし、控訴人は、「封筒の日付以外の証拠によって期限内に投函されたことを証明した場合如何」について、裁判所に判断を仰いでいるのである。

法二二条は、封筒に期限内の郵便局通信日付があれば、「期限内申告書とみなす」と規定しているが、その趣旨は、郵便局の押印日付が期限内である場合で、期限後に税務署に到着した場合、税務署に反証を許さないということであって、納税者には反証が許されるのであり、また、期限内押印日付がない等の場合も、期限内投函の事実について、納税者から反証を行うことは当然に許されるものである。租税法は徴税法ではなく、人権法であり、明確な失権条項がない限り、納税者の権利は失権しない。

(2) 法二二条の要件(郵便による期限内申告成立の要件)

法二二条は、申告書が郵便により提出された場合には、「その郵便物の通信日付印により表示された日にその提出がされたものとみなす。」、「その表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物について通常要する郵送日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日にその提出がされたものとみなす」としている。

これらから抽出される、郵便申告書の期限内申告書の効力を発生させる実体法的要件は、「期限内に郵便局へ申告書を提出すること」、すなわち、「申告書を郵便局へ期限内に投函したこと」である。通信日付印は、期限内投函という実体法的要件に該当することの証明にすぎず、別の次元の問題(手続問題)である。実体法要件と手続法要件を決して混同してはならない。

(3) 郵便申告書は期限内投函が要件(郵便局提出主義)

法二二条の趣旨は、郵便により申告書を提出する場合、郵便局提出主義(期限内に郵便局へ投函することが要件)を採ることを明確にしたものである。郵便申告の場合で納税者到達主義が採用されることはない。申告書が期限内に郵便局へ提出されればよいとするものである。そして、郵便申告はすべて郵便局提出主義が採られ、この場合、その提出を証明する手段として、

<1> 「郵便物の通信日付印」によって証明できる日に提出されたものとみなし、

<2> 「通信日付印がない場合」は、「税務署が受領した日から通常要する郵送日数を遡及して算出される日」に提出されたものとみなし、

<3> 「通信日付印の表示が明瞭でない場合」も「税務署が受領した日から通常要する郵送日数を遡及して算出される日」に提出されたものとみなすことにしている。

被控訴人は、「郵便申告の場合で、税務署への到達が期限内であることが必要とされる場合がある」と主張するが、郵便申告の場合は、すべて期限内に郵便局へ提出すればよいとするのが法二二条の期限内申告の実体法要件である。

特に、右<2>と<3>の場合、「通常要する郵送日数」から推定して、期限内投函が証明される場合も期限内申告とするものであり、この場合も「投函日主義」を採用している立法の趣旨を勘案すると、郵便申告の場合はすべて「投函日主義」が採用されているものと解すべきであり、「税務署到達主義」は法二二条の解釈を誤るものである。

(4) 投函日の証明

右規定は、納税義務者の発信日(申告書を郵便局へ提出した日)の証明を緩和するものであって、その他の証拠方法により、投函日を証明することを禁ずるものではない。「みなす」という法文規定がある場合、「納税者が」別の証拠で真実を証明することが禁止されるということは、絶対にない。他の法領域と異なり、納税者の権利を失権させるためには、明確な失権条項が必要である(課税要件明確主義)。

本件は、合目的的に解釈すれば、「その表示が明確でないとき」に該当するものであり、前記(3)の<2>、<3>の場合が期限内申告と扱われるのに、本件の場合救済されないのは正義に反する。

(5) 投函時刻の証明(証明方法)

「期限内に郵便局へ提出した事実」と「その証明方法」とは、区別しなければならない。提出の事実は、法二二条によれば郵便局への投函をもって完了するものであり、郵便局が設置したポストへの投函によって、提出したことになる。

同法は、郵便局の受領は郵便物の通信日付印が書証の一つとするが、ポストへの投函時と通信日付押印時とは、通常数時間のラグタイムがある。提出時というのは発信者の手を離れる時を意味するから、郵便ポストへの投函時が提出時であることは疑念の余地がない。

提出時の証明を、郵便物の通信日付印以外で行うことは困難であるが、本件においては、控訴人はビデオテープに投函状況を録画しており、投函時を客観的に証明している。ビデオテープには、我孫子郵便局内のポストへ、申告書を提出した時のテレビ番組が放映された状況も録画されており、時刻の証明として十分である。

(6) 「みなす」規定の解釈

法二二条は、提出期限について、納税者の不平等を解消するために設られた規定である。所得税申告の場合、一月一日から一二月三一日までの一年間の取引等を集計し、決算手続きを経た後、税務申告書を作成し、通常翌年の二月一五日から三月一五日(同日が休日のときは翌日が期限となる。)までの一か月間に申告をしなければならない。しかし、北海道や沖縄に事業所を有する者や、遠隔地から申告する者は、税務署への到着が申告期限内に行われなければならないとすると、管轄税務署の近くに住む者との間で不公平となる。そこで、法二二条は、郵便申告を認め、この場合は、投函日をもって申告書提出日とみなすとしている。

法は、「郵便申告の場合」は、「郵便局への投函日」を「申告書提出日とみなす」としているのであって、「郵便局投函日の証明」については、別に考えななければならない。

いわゆるみなし規定の解釈については、法文上、「~とみなす」と規定されたものは、数多く存在し、その意味については、通常一定の要件が存在する場合に一定の効果が擬制されること、すなわち反証を許さないことを意味することが多いが、租税法は人権法であるから、これは税務署に向けた制約である。

しかし、法文上、「~みなす」と規定された場合であっても、一定の要件の存在により一定の効果を擬制し、反証を許さないとすることが不合理であると認められる場合には、その規定は、「推定する」と読み替えるべきである。本件規定はみなし規定ではなく、前記(3)の<2>、<3>の場合(期限内投函が推定される場合)に関する証明についての規定は仕方からみて、推定規定であると読み替えるべきである。裁判例においても、大阪地裁昭和四〇年六月一九日判決(法人税更正決定取消請求事件)において、旧法人税法施行規則二三条の八にいう「みなして」の趣旨は「事実上推定したものと解するのが相当」と判示している。

(7) 推定規定と解釈すべき根拠

法二二条の趣旨は、既にみてきたとおりであり、仮に反証を許さない趣旨であるとすれば、本件のように現実には期限内申告がなされたにもかかわらず、無申告加算税の課税という不利益処分がなされることとなるが、これは手続の適正性を要請する租税法律主義に反する不利益処分である。

前記のような通信日付印がない場合及びその表示が明瞭でない場合の規定との比較からみても、みなし規定と解釈するには高度の合理性がなければならない。

納税者の不平等などを解消するために、郵便申告を認め、郵便局への投函日をもって申告書提出日とみなすとしている法二二の趣旨との整合性からみても、本件は、真実として期限内に郵便局へ投函したのであるから、期限内申告として取り扱ったとしても、右趣旨に整合すると考えられても、右趣旨を逸脱することはない。

期限内投函が推定される場合、すなわち、前記(3)の<2>、<3>の場合(別表ケース1ないし3)、税務署の恣意的な認定が許されるのではなく、裁判所で「通常要する日数」を争う得ることに異論はないから、<1>の場合も納税者にとって、推定規定というべきである。

以上により、法二二条の規定はすべて推定規定と解釈すべきである。

(8) 取扱いの平等と憲法一四条一項(平等取扱原則)

別表は、ケース1から7までを想定した事例である。ケース1から5まですべて期限内申告として扱われているのに、ケース6である本件が期限内申告として扱われないのは、憲法一四条一項に由来する「平等取扱原則」ないし「不平等取扱禁止原則」に違反する。郵便申告の場合、そのうち前記(3)の<2>、<3>の場合には、個別実質判定をして投函日を決定するべきとしており、この法二二条の立法趣旨を考慮すると、「税務署への到達日を申告日とする郵便申告」はないといわなければならない。

右<2>、<3>の場合に納税者に納税者の反証が許されていることを考えると、郵便申告は、常に「郵便局への投函日を申告日」とするのが、法二二条の実体法的構成要件である。そして、投函日の証明は別次元の問題であり、同法は証拠として「郵便物の通信日付印」や「申告書の到着日」を許容している。

本件は法二二条にいう「通信日付印が明瞭でないとき」に該当すると考えるが、仮に本件が前記(3)の<1>、<2>、<3>のいずれのも該当しないケースであれば、予備的に平等取扱原則(憲法一四条)から、期限内申告として扱うべきであると主張する。

2  控訴人の当番における主張に対する判断

(一) 法二二条の趣旨

控訴人の法的主張(1)ないし(5)の要旨は、法二二条は、郵便により納税申告書等を提出する場合に、期限内に郵便局へ提出(投函)することを実体法要件とする郵便局提出主義を採ることを明確にしたものであり、郵便局押印による通信日付印は期限内に納税申告書を郵便局に提出した旨の証明方法の一つにすぎず、課税の実体法要件と申告書提出の事実の証明方法とは別の次元の問題として区別して考えるべきであるから、通信日付印以外の証拠方法により投函日を証明することを禁ずるものではないし、控訴人は、現に期限内に郵便ポストに投函した事実を証明できるというものであって、原審における主張とほぼ同一である。

そこで判断するに、納税申告については、「申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない。」(法一七条一項)と定められており、税務署長への確定申告書の提出(期限内申告)が基本原則であり、また、税務上、税務官庁に対する書類の提出を郵便等により行う場合に、当該書類の提出に伴う効力の発生時期を判定する一般的基準については、税法上特別の規定がないことから、原則的には、民法上の意思表示の一般原則たるいわゆる到着主義(民法九七条一項)により、当該書類の到達の時にその効力が発生するものと解される。そして、法二二条は、郵便物の紛失や配達の著しい遅延の生ずる蓋然性が相当低くなった現在の郵便事情等を考慮し、また、納税者と関係税務官庁との地理的間隔の差異に基づく不公平を是正する必要性をも勘案して、郵送により提出された納税申告書等については、その郵便物の通信日付印により表示された日などにその提出があったものとみなして、右の日に申告等の効力が発生したとするものであり、その意味で実質的には民法上の到達主義の原則を緩和したものということができる。

控訴人は、<1>「郵便物の通信日付印」によって証明できる日に提出されたものとみなし、<2>「通信日付印のない場合」は、「税務署が受領した日から通常要する郵送日数を遡及して算出される日」に提出されたものとみなし、<3>「通信日付印の表示が明瞭でない場合」も「税務署が受領した日から通常要する郵送日数を遡及して算出される日」に提出されたものとみなすという規定の仕方から、郵便申告の場合は、すべて期限内に郵便局へ提出すればよいとするのが法二二条の期限内申告の実体法要件である旨主張する。

しかし、法二二条は、「納税申告書(当該申告書に添附すべき書類その他当該申告書の提出に関連して提出するものとされている書類を含む。)が郵便により提出された場合には、その郵便物の通信日付印により表示された日(その表示がないとき、又はその表示が明瞭でないときは、その郵便物について通常要する郵送日数を基準とした場合にその日に相当するものと認められる日)にその提出がされたものとみなす。」と規定しており、その規定ぶりからみれば、郵便物の通信日付印により表示された日に提出されたものとみなすという規定が基本原則であって、その通信日付印による表示がない場合、又はその表示が明瞭でない場合に、その日(本来あるべき通信日付印により表示される日)に相当するものと認められる日を推定するための補充規定として、通常要する郵送日数を考慮するという規定がおかれたものと解するのが相当である。

そして、「通信日付印により表示された日」という要件は、一義的に明確であり、税務署の恣意や裁量が入る余地はないから、通信日付印により表示された日が存在し、かつ、それが明瞭である場合は、その日をもって提出日と擬制するというのが、法二二条の定めた要件及び効果であって、控訴人主張のように、法は実体法要件として郵便局(期限内)提出主義なるものを採用したものであり、通信日付印等による証明は単に手続的事項を定めたものにすぎないと解することは相当でない。

したがって、控訴人の主張は理由がない。

(二) 法二二条における「みなす」規定の趣旨

控訴人は、法的主義(6)及び(7)において、法文に「みなす」との文言が用いられている場合であっても、必ずしも反証を許さないことを意味するものではなく、反証を許さないことが不合理であると認められる場合には、その規定は「推定する」と読み替えるべきであり、法二二条の「みなす」規定を推定規定と解すべき根拠も十分ある旨主張する。

しかし、法二二条の「みなす」規定の趣旨は、申告納税方式による納税申告は比較的短期間に定められた法定申告期限内に大量の事務を処理しなければならない性格を有し、効率的な事務処理の観点から提出日の判定を画一的な基準で行う必要性が高いことから、納税申告書の郵便物に付された通信日付印等を提出日の判定基準としたものであると解されるのであって、右趣旨に照らせば、通信日付印が虚偽であるとの特段の事情がある場合は格別、その他の場合については同条に定められた通信日付印により表示された日等の方法以外の証拠等により個別的に提出日を証明し、これに基づき提出日を判定することを許さない取扱いをしても違法ではないというべきである。また、法二二条の「みなす」規定を厳格な意味において「擬制」すなわち反証を許さない規定であると判断したからといって、前記規定の趣旨に照らして、租税法律主義に違反する不利益処分に当たるものとはいえない。

なお、控訴人が主張するような「みなす」規定を「事実上推定したもの」と解した地裁判例があるとしても、当該事案は、実質的課税要件を定める法律ではなく命令で擬制することを問題にしているものであり、前記のとおり、法律自体が擬制を規定している本件について、何ら影響を及ぼすものではない。

したがって、控訴人の主張は理由がない。

(三) 憲法一四条一項(平等取扱原則)違反の主張について

控訴人は、法的主張(8)において、「通信日付印のない場合」及び「通信日付印の表示が明瞭でない場合」には「税務署長が受領した日から通常要する郵送日数を遡及して算出される日」に提出されたものとみなすことにしていることとの比較において、また、別表のケースとの比較において、通信日付印がある場合についても実際の投函日の反証を許さなければ平等取扱原則違反となる旨主張する。

しかし、法二二条は「納税申告書が郵便により提出された場合には、その郵便物の通信日付印により表示された日にその提出がなされたものとみなす」と規定しているのであって、たまたま別表のような個別のケース(なお、別表のケースは、郵送に通常用する日数を五日間とするもの等があり、今日の郵便事情に照らして必ずしも適切なものとはいえないが、その点はさておく。)において、実際には期限後の投函であっても、「通信日付印のない場合」及び「通信日付印の表示が明瞭でない場合」に当たり、通常要する日数の算定の仕方によっては期限内申告として救済される場合があり得るとしても、それは法二二条自体が許容する範囲のものと解するのが相当である(なお、控訴人も法二二条の規定自体が憲法違反であるとの主張をするものではない。)から、平等原則違反の主張は採用することができない。

また、法二二条は「納税申告書が郵便により提出された場合には、その郵便物の通信日付印により表示された日にその提出がなされたものとみなす」と規定しているのであり、この規定は通信日付印が申告期限後のものについてはすべて一律に適用されるのであって、控訴人を特別扱いして排除するものではないから、この点においても平等取扱原則に反するものでないことは明らかである。

よって、控訴人の主張は理由がない。

第四結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、注文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石垣君雄 裁判官 芝田俊文 裁判官 橋本昌純)

別紙 <省略>

※ 税務署に到達するのに通常要する日数を5日間とし、又、期限を3月16日とした場合の期限内申告取り扱いの有無を図示したもの。

矢印のスタートのところが投函日であり、矢印の最後のところが税務署到達日とする。

ケース5は稀有な事例であるが、郵便局職員が日付スタンプを戻して前日付の押印をした場合である。

本件はケース6であり、ケース1~5に比較して、平等取扱原則に照らし、当然期限内申告と扱われるべきである。

ケース2の場合、期限翌日の早朝で、執務時間開始前に税務署の夜間受付ポストヘ直接投函した場合も救済される。

本件ケース6は、ケース2やケース3・ケース5よりも、もっと救済されるべき度合の高い場合である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例